2022/12/09 19:36



いよいよ来週13日より5日間、アントニス・カーデューの展示がはじまります。過去の展示の際に、アントニスの作品についてご紹介しました内容にすこし加筆したものを、あらためてご紹介させていただきます。

アントニス・カーデュー氏は、フランス・パリ在住の木工家で、もともとは家具職人。家具製作のかたわら、ウッドターニング(木工旋盤)による木の器やオブジェを製作しています。

アントニスは、バーナード・リーチの St.Ives工房の一番弟子であり、イギリスの伝統陶芸の継承者、日本の民藝運動にも深く関わりのあった陶芸家、マイケル・カーデュー(Michel Cardew)氏を祖父に持ち、マイケル・カーデューの長男である陶芸家セス・カーデュー、前衛音楽家のコーネリアス・カーデューを伯父に持つアーティスト一家に育ちました。

 

アントニスの兄弟達もまた、写真家や陶芸家の道へ進み、アントニス自身も、学生時代に陶芸を試みましたが、徐々に木工の道へと導かれていきます。そこには、偉大な祖父を持つ若きアントニスの苦悩と重圧も、少なからず関係していたのだと、あるとき話してくれました。
 
結婚を機に、活動拠点をフランスに移したアントニスは、パリ郊外に小さなアトリエを構えます。普段は、エベニスト(家具職人)として、カフェやレストランの内装、オフィスや個人宅の階段、作り付けの棚など、大きな仕事もこなしながら、アントニス個人の作品として、家具や木の器の製作をしています。

 

もともと器づくりは、両親の家にあった祖母の古いウォルナットの器を思い出し、家具製作の際に余った木片で、家族や友人のために作りはじめたのがきっかけでした。完成までに長い時間と集中力を要する家具製作。一方で、短時間で完成できる器づくりは、家具をつくるためのモチベーションや、クリエイティビティを保つために欠かせない大切なひとときとなっていったそう。
 
「ものづくりの源は木や自然。休日は、ノルマンディーにある古い農家で、りんごを収穫したり、木片を集めて過ごすんだ。僕は素材をきちんと理解する職人になりたい。木は一から形づくる粘土と違って、すでに木自身が “語っている” から、その物語に耳を澄ませて、できるだけ自然のままの状態で作品にしているよ」。


2012年に、初めてアントニスの木の器を、kosaji の前身(小匙舎)で紹介した頃は、まだパリでも友人達からクリスマスのプレゼントにと、小さなオーダーが入る程度でした。以降、日本で毎年展示を開催し、昨年は初めて福岡でも展示をさせていただく機会に恵まれ、日本でも徐々にファンの方が増えてきました。またフランスでも、近年のクラフトブームの影響もあり、取り扱う店舗が増え、“創作から日常へ切り替わるちょっとした時間”に、趣味ではじめた器づくりは、今ではアントニスを代表する作品のひとつとなりました。


パリ11区のアパート3フロア分をリノベーションした自宅に暮らすアントニス。扉や階段、テーブルもすべてアントニスの手作り。食卓の横のキャビネットの上には、長年つくり続けた木の器が何枚も積み重ねられ、手に触れると、油がしみ込みしっとりとした質感。すっかり年季の入った木肌は、何十年も毎日家族で使い古され、“生活の痕跡”のしみ込んだ深い色とやさしい手触り。


「クラフト=日常のもの。使うことを楽しむことが大切」という祖父の教えを受け継いだ食卓では、アントニス夫婦が世界各地で集めた民藝の器、伯父や兄弟の作品とともに、マイケル・カーデュー氏の作品が普段使いされ、なかには割れたり欠けたりしたものも。壊れたら修理して、しっかり使い果たしたら、新しいものを迎える、というスタイルが、あたりまえなのだそう。

「クラフトは生活に寄り添ったものづくり。家具や器をつくることも、家族のためにパンやタルトを焼くことも、すべてが一線上にあるんだ。居心地のよい暮らしが、僕のものづくりの基本」。




普段は、パリ市内の自宅の仕事部屋と郊外のアトリエを行き来する日々。週末は、ノルマンディーの田舎の家に出かけ、父親、職人、そして木を愛する少年のような一面が年輪のように重なった、力強くやさしい手から生まれるアントニスの器。

 

「色、形がひとつひとつ違う”野生のりんご”のような素朴さ、そしてシンプルで使いやすいこと。この2つが調和した、心地よさを大切にしたいんだ。」


アントニスの作品のなかでも、とくに人気の高い繊細な薄造りの林檎のボウルや、桃褐色の木肌が美しい洋梨のプレート。林檎や洋梨はあまり大きく育つ木ではないため、木材市場ではあまり出まわることのない木ですが、アントニスは、昔からの林檎農家の多いノルマンディーの農家から譲ってもらう貴重な木々で器づくりをしています。ノルマンディーの大地で、100年、200年の長い時を過ごした、古い洋梨や林檎の木から作られる器は、なめらかな木肌と繊細な木目の表情がとても美しいのですが、サイズの大きなボウルなどは、よい木との出会いに恵まれないと作ることは叶いません。


今回は、樹齢100年ほどのノルマンディーのペアー(洋梨)から作られた大きな美しいボウルが並びます。今回の展示に間に合うぎりぎりのタイミング(数日前に届いたばかり!)で出会いがあり生まれたとてもスペシャルな作品です。


力強く素朴かつ繊細な美しさをもつアントニスの木の器は、使ってゆくほどに深みがまし育ってゆきます。アントニスの木の器は、毎朝のパンにも、アトリエでの職人達のオイルやバターをたっぷりのお昼ご飯にも、お茶の時間のタルトにも、やさしく寄り添い、しっかりと受け止めてくれます。オイルフィニッシュの自然のままの木肌は、不思議なことに撫でていると心が落ち着いて穏やかな気持ちに。

 

林檎や洋梨、ウォルナット、シカモア、オーク、ニレひとつひとつ表情の違う木の器たち。普段は、なかなかお手に取っていただく機会の少ないアントニスの器ですので、この機会にぜひたくさんの方々に、ご覧いただけましたら嬉しいです。

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